斜里富士（斜里岳）　１５４７メートル■心満たす多彩な眺望　少しだけ晴れ間がのぞいた先月下旬。斜里岳の５合目登山口の山小屋「清岳荘」に近い登山道沿いに、アザミやエゾスカシユリ、エゾノヨロイグサなどの植物が咲き乱れ、ウグイスなどの野鳥の鳴き声が飛び交っていた。岩間を流れる川が涼しげだ。　阿寒の山々と知床連山のほぼ真ん中にある独立峰。「斜里富士」「オホーツク富士」とも呼ばれる。深田久弥は著書「日本百名山」で、「大きく根を張った山」「美しいピラミッドの山」とたたえた。アイヌの人たちはオンネプリ（「大山」の意味）と呼び、崇拝してきたという。　　　▲　　▲　広いオホーツク地方の人たちにとっては眼前にそびえ、あるいは遠くに望む秀峰だ。　とくに地元の清里、斜里両町の住民には母なる山だ。この時期、ふもとには白い花を咲かせるジャガイモ畑と麦畑などが見渡す限り広がる。「斜里富士を望む畑で採れた野菜」と銘打って全国に売り込む会社もある。　　　▲　　▲　斜里町来運（らいうん）地区。ここの冷たいわき水は「来運の水」と呼ばれ、親しまれている。今夏も廃校となった旧・来運小学校で、川や森に親しむイベント「水のがっこう夏まつり」が開かれ、子どもが魚を捕まえ、泥んこに。地元の食材を使ったうどんやカレーなどの店も並んだ。　「親子・自然・出会い」がテーマのまつりは今年で７回目。実行委員長の内越慎一さん（５４）は「来運の水は斜里岳の伏流水で、この地には欠かせない山。この山がもたらす豊かな自然と地域の人たちに支えられ、多くの人が参加するまつりになりました」という。「斜里岳の形がとにかく好き」という内越さんは、自然と地域住民とを結ぶ取り組みに力を入れる。　オホーツク海を隔てた網走側からは斜里岳の多彩な眺望が楽しめる。流氷の海の向こうにたたずむ姿、オオハクチョウが飛来する濤沸湖から望む悠然とした姿……。見るだけで、これだけ心満たされる山もそう多くはないと思う。　山頂からは知床半島やオホーツク海、国後島、摩周湖なども一望できる。（石間敦）